2006-07-29

78)また、舞台の話で・・・

 前回の「忍ぶ恋路は『日本侠客伝 血斗神田祭り』」で、わがご贔屓・藤純子がラストでマキノ雅弘に見えた、と述べましたが、舞台で芝居を観ていた時にも同じような経験があります。

 その時は、太地喜和子が杉村春子に見えた、でした。

 太地喜和子は1992年に不慮の事故で、杉村春子は1997年に病気で、それぞれ、あちらの世界に引っ越していますから、ボクが観た文学座公演「華岡青洲の妻」(原作、脚色・有吉佐和子、演出・戌井市郎)は今から20年前の舞台になります(もう、そんなに時間がたってしまったのかーと驚いています)。
 映画(1966年)にもなっているこの作品は、ご存じのように嫁と姑の確執のドラマですね。ボクが観た舞台では姑の於継は杉村春子、嫁の加恵は太地喜和子が演じています。
 嫁の加恵が姑の於継との闘いを経て数年後の終幕、盲目になった加恵が舞台中央の奥から被布姿で登場します。加恵を演じる太地喜和子がしずしずと奥から舞台の前方に現れた時、ボクはそこに杉村春子を見てしまいました。
 「えっ!? 杉村春子やんかー」ですわ^^
 一瞬、錯覚かと思いました。でも、舞台に現れているのは太地喜和子です。杉村春子の出は終幕の一つ前の場面で終わっています。でも、そこに現れたのは太地喜和子であって、太地喜和子でない杉村春子でした。。つまり、それほど太地喜和子の身のこなし、表情、喋り方、何から何まで杉村春子だったんですね。

 でも、これで正解だったんですね。観客が錯覚を起すほど、終幕に登場する太地喜和子は太地喜和子であって、太地喜和子でない杉村春子でなければならなかったのです。
 「華岡青洲の妻」は単なる姑の嫁いびりの話ではありません。同じような資質を持った女二人が、息子であり、夫である男(華岡青洲)を間に自己主張し、ライバルとして競争するドラマです。極論すれば、息子であり、夫である男の取り合いですね。
 姑の於継にとって、加恵は自分の存在を脅かす相手です。だから、加恵との確執の中で次第に姑というより、加恵と同じ一人の女として息子である青洲に向かうようになります。於継は心の奥底で加恵の資質を認めています。「賢い女」と認めているからこそ、加恵と同じラインに立たないと負けてしまいそうなんですね。でも、これ、怖いですね。一歩間違えれば精神的な近親相姦のドラマになってしまいます。
 嫁の加恵は、セリフにも出てくるように於継を「あるべき女性の姿」として憧れ、その憧れのまま華岡家に嫁いできます。嫁いできた時、夫となる青洲は医学修業のために不在で、だから、序幕は加恵はまだ夫の顔すら知らない嫁として登場します。これ、怖いですね。昔はよくあったとはいえ、夫になる相手の顔すら知らないまま結婚するなんで冒険ですね。勇気がありますよね。

 女二人の争いで、特に加恵のほうにこういう前提があるから、終幕での加恵は於継でなければならないのです。加恵はことごとに於継のいやがらせを受け、時には姑をののしるような言動にも出ますが、於継への、かつて自分が思い描いた憧れは失っていません。だから、於継を恨んではいません。終幕では、よきライバルであった意味も含めて姑のことを崇めています。
 言い換えれば、終幕で加恵に扮する女優が相手役であるもう一人の女優にどこまで化けられるか、ですね。化けおおせてこそ、この後、すぐの青洲の妹が言う「おねえはん、このごろ、おかあはんに似てきたよし」というセリフも生きてきます。
 それで、ボクが観た舞台では太地喜和子は見事に杉村春子に化けてくれました。

 太地喜和子は杉村春子に憧れて女優として再出発をした人ですが、この舞台では、どこまで杉村と伍して勝負できるかという太地喜和子のもくろみもあったかもしれません。
 一方の杉村春子も太地喜和子の実力を認めつつも、自分が主宰する劇団内で自分をしのぐほどの女優が出てくることに警戒心を持っていたとも聞いています。これは当然ですよね。だから、「華岡青洲の妻」の舞台は姑と嫁との確執ばかりでなく、女優二人の妍を競う舞台だったともいえます。
 もちろん、藤純子にマキノ雅弘を見た場合と太地喜和子に杉村春子を見た場合とでは意味は違います。付け加えておきます^^

 追記
 この舞台の大阪公演の直前、行きつけの喫茶店で大阪入りしたばかりの太地喜和子に会ったことがあります。喫茶店のオーナーと太地喜和子が知り合いで店に訪ねてきていたところにボクが来合わせたのですが、オーナーがボクを「杉村春子のファン」と紹介したばかりにサインを貰い損ねてしまいました^^
 ボクが帰ろうとすると、「お待ちしております」と言って見せた太地喜和子の笑顔、かわいかったです^^ 素の太地喜和子は小柄な体つきのチャーミングな女性でしたね。
 
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太地喜和子…

「唐人お吉」でしたね、太地喜和子の最後の舞台は。私は70年代以降めったに劇を観なかったので(唐十郎で終わりです)、彼女の舞台も全然観ていませんが、大変気になる女優さんでしたね。入水したお吉に召されたように水死した事件に関心があったので、本も読みました。題名忘れましたが「女優太地喜和子」みたいな本…。私はお吉という悲運な女性にも関心があって、下田めぐりをしたこともあります。太地喜和子の映画では、やはり「寅さん」で、田舎芸者をやった時の印象が鮮やかに残っています。渥美清と宇野重吉と彼女のトリオが良かった!
そうですか、「華岡青洲の妻」では嫁さん役をやったんですか。映画では若尾文子だった。舞台では姑さんが杉村春子だったとのことですが、映画は誰でしたっけ…?
この間、池袋の新文芸座で豊田四郎の「夫婦善哉」と「猫と庄造と二人の女」を観て来ました。淡島千景とか山田五十鈴とか浪花千栄子とか、最近私は昔の女優にはまっています。「反逆児」の杉村春子はすさまじかった!今でも彼女の築山御前は時折目の前に浮かびます。

背寒さんへ

 ご訪問、ありがとうございました。
 太地喜和子の最後の舞台は「唐人お吉ものがたり」でした。大阪公演(もちろん観ています)から1ヵ月後、伊豆の公演先で突然の死を迎え、これはボクにも衝撃的な出来事でした。
 「華岡青洲の妻」の於継は杉村春子の持ち役でした。映画で於継をやったのは高峰秀子です。ちなみに、青洲さんは市川雷蔵です。ボクは杉村の舞台のほうを2度観ていますが、青洲は高橋悦史、江守徹で、2度目は太地の死後だったので平淑恵でした。
 「猫と庄造と二人のをんな」の香川、山田、浪花の三人、いいですよね^^昔の女優にはまっているということですが、成瀬の「流れる」は観られたことがありますか。あれもいい。田中絹代、山田、高峰、岡田茉莉子、杉村に加え、戦前の栗島すみ子まで出てきて脇役の女優陣もツブが揃っています。
 杉村春子は、大好きな女優でした。映画では「麦秋」のおばちゃんと「反逆兒」の築山殿は絶品ですよね。舞台の方は彼女が70歳になったころからなくなる1年前までの約20年間観ていましたが、80歳で「欲望という名の電車」のブランチを再演した時は、ほんと凄かったです。役者魂を観客にぶつけてきて思い出深い舞台になっています。

「…二人のをんな」

そう、「女」でなく「をんな」でした。香川京子は、黒澤映画のイメージがあったので、あの大胆な演技にはびっくりしましたね。私はこの間初めて観たんですよ。でもあの映画では三人目の女浪花千栄子が最高良かった!
「流れる」は、若い頃銀座並木座で観た気がしますが、今度またじっくり観てみます。栗島すみ子に注目して。
東映時代劇を中心に観ていると、他の映画を観るヒマがとれなくて、困っています。
昔の女優と言えば、「祇園祭」で滝花久子が惨殺されるシーンをこの前見てしまって、今も頭から離れません。「路傍の石」もあわれな母親役で、目に焼きついています。最近観た映画では、「偽れる盛装」の京マチ子、「噂の女」の田中絹代が特に印象に残っているかな…。
私は、錦之助の東映時代劇も大好きですが、文芸映画も好きで、見残した作品をちょこちょこ観ています。
青山さん、おススメの任侠映画は、結構見た記憶がありますが、みんな混ざってしまって、頭の整理がつきません。今度沢島忠の「人生劇場」あたりから、ぼちぼち見直そうと思っています。
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