2006-07-11

68)泣かされて泣かした「色ごと師春団治」

 前回のマキノ正博(雅弘)監督つながりで、今回もマキノ監督の1965年の作品「色ごと師春団治」を。モノクロの小品ながら、こちらは一番よく知られている『マキノ雅弘』名の映画です。
 大阪の噺家、初代桂春団治の女遍歴を描いた、長谷川幸延原作の映画化というより、松竹新喜劇の当たり狂言だった作品ですね(当たり狂言だった、と記さざるを得ないところが悲しいですな。松竹新喜劇、時代の波に押されたのと吸引力のある役者不在で事実上、壊滅しています)。
 春団治に扮しているのは、舞台でも好評だった藤山寛美。早世した不世出の喜劇役者といっていい俳優で、およそ20年にも及ぶ松竹新喜劇の不休公演を打ち立てた役者さんです。この不休公演は必ずしも質的に成功していたといえるのかどうか、また、説教じみた舞台がいささか鼻につくこともありましたが、あらためて映画で藤山寛美を観ると、別段、二枚目でもないのに色っぽい役者であったことがわかります。

 現実の初代春団治が生涯で、いったい何人の女性とおつきあいしたのか知りませんが、映画では春団治に関わる女性が三人登場します。
 わがご贔屓・藤純子もそのうちの一人を演じています。春団治が京都の寄席に出演している間に仲良くなった素人の娘さんの役で、春団治にしてみればほんの遊びのつもりだったのが、この娘さんは妊娠してしまい、家出同然で実家を飛び出して春団治の押しかけ女房になります。
 映画デビューして3年目を迎えていた藤純子は、この映画でも「大阪ど根性物語 どえらい奴」同様、娘から妻へ、そして母親へと変遷する女を演じています。後年、一枚看板となった藤純子は映画では役柄がやや固定してしまいましたが、このころは何でもやっていたんですね。さすがにまだ極端な老け役こそありませんが、素人娘あり、芸者あり、娼婦あり、人妻あり、田舎娘ありで、もういろいろ^^
 ちなみに、この映画では二人の間にできた娘の幼年時代を寛美の娘、藤山直美(当時は直子)が演じています。数年前、藤山直美はこの作品の舞台で主演しています。春団治には沢田研二が扮し、直美が演じたのは藤純子の役ではなく、最初の女性で春団治とは腐れ縁の付き合いになる世話女房型の女で、映画では南田洋子が扮しています。
 映画「色ごと師春団治」で、最初に登場するのは南田洋子演じる寄席のお茶子(案内係兼物品販売員)をしている女性です。春団治とともに暮らしていますが、仕事柄、芸人の世界のことに通じているため、春団治にとっては快適な女性です。
 南田のほうも、たびたびある春団治の浮気に苦い思いをしながらも「わてがおらへんかったら、この人はアカン」と酸いも甘いもかみ分けた世話女房然としています。いや、女房というより、春団治にとっては何でも許してくれる母親的な存在ですね。だから春団治は甘えています(男にとって恋人や女房というより、母親的な存在の女性は、その後のマキノ雅弘の作品にたびたび登場しています)。
 そんな二人の前に現れるのが、「妊娠してしもた」と京都からやってきた藤純子です。最初は単なる春団治の追っかけをしている娘さんと思っていた南田は相手が素人であり、しかも、妊娠しているとわかると、潔く自ら身を引いてしまいます。
 二人の女を前にオロオロするだけの春団治に、
 「あんた、あの人を泣かしたらあきまへんで」
と言い残し、その夜のうちに春団治の家を出ていきますが、この最後の言葉に南田洋子の哀しみがにじみ出ています。

 女房の座を譲られた藤純子と春団治は夫婦生活に入りますが、今度の女房は春団治にとっては南田と異なり、居心地の悪い女房です。
 春団治は芸人ですから、サラリーマンなどと違って毎日、毎日、決まった時間に帰宅するわけではありません。ひいき筋や芸人仲間との付き合いもあるでしょう。時には女のつまみ食いをしているかもしれません。二人の間に子どもができるに及び、家に帰るたびに女房の涙のボヤキを聞かされ、それがうっとおしい春団治は不在がちになります。
 純子は芸人の女房としては、下げマンなんですね。前妻の南田と違い、芸人のことを少しもわかっていない、わかろうとしないと春団治には映ります。といっても、それは男からみた場合の理屈で、純子のほうは夫を持った女として当然の要求をしているだけです。しかし、二人の思いはすれ違ったまま、ついに純子は子どもを連れて京都へ戻ってしまいます。

 さて、次に春団治の前に現れるのは若い後家さんです。夫と死別して気随気ままに暮らしている女性ですが、実は春団治が10代のころ、丁稚奉公していた商家の娘で、そんな子どものころ、憧れていた女性だったというオチがついています。
 かつての主筋の娘と男と女の関係になるところなど、春団治も太閤秀吉ですな。この後家さんとの付き合いが表ざたになって、春団治は「後家殺し」の異名を取り、ますます人気芸人になっていきます。
 後家さんを演じたのは丘さとみです。
 東映時代劇ではお馴染みの女優(あえて、お姫様女優とはいいません)ながら、マキノ作品でマキノ雅弘に女優としてしごかれています。「清水港の名物男 遠州森の石松」(1958年)の女郎・夕顔、「弥太郎笠」(1960年)の愛しい男をひたすら待つ娘・お雪、「港祭りに来た男」(1961年)の不思議な縁で男と結ばれる女・おゆう、「いれずみ半太郎」(1963年)の底辺をさまよう女・お仲など、いろいろと苦心の名演技を残しています。

 「後家殺し」のニックネームがついて芸人街道まっしぐらの春団治も、やはり人の子です。年月がたち、それなりに分別もできる年齢になって、彼も捨てたはずのわが子が恋しくなります。そのわが子は京都に帰った純子とともに暮らしています。ひと目、子どもに会いたさに春団治はかつての女房が暮らす家を訪れますが、かつては泣いているだけだった純子も強い女になっています。春団治はすごすごと引き返すしかありません。
 娘と二人暮らしの母親となって再び登場する純子は、かつて冷たい仕打ちをした男に対して毅然とした態度を取ります。といっても、見せる姿勢は毅然とした強いものを感じさせながら、心では泣いていなければなりません。
 このあたり、マキノお得意の女の表現ですね。弱冠20歳の純子、このシーンでは努力賞ものでした。
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