2006-06-17

58)かぁちゃん頑張る「明日の記憶」

 若年性アルツハイマー病をテーマにした映画「明日の記憶」を観てきました。荻原浩の原作を脚本・砂本量、三浦有為子、監督・堤幸彦で映像化したものです。
 ひと言でいうと現代版「夫婦善哉」ですね、この映画。亭主がアテにできないのなら、女房が頑張るという日本の伝統的なドラマスタイルです。ただ、亭主がアテにできなくなったのは織田作の「夫婦善哉」の主人公、蝶子と柳吉の場合と異なり、亭主が若年性アルツハイマー病という現在では手の打ちようのない病気になったためです。
 女道楽やバクチと違って、だれしもが罹患する病気という不可抗力だったというだけです。

 だから、この映画はテーマである若年性アルツハイマー病という面から観ていっては全然面白くありません。映画に描かれた通りの病気ですから、口の挟みようもありません。はい、仰せごもっともな、この病気とはどんな症状になるのかを教えてくれる啓蒙映画に終わってしまいます。
 病気がテーマであり、また、観客層の年代が高めになることを予想してか、真正面から、ひたすら生真面目に、そして分かりやすくドラマは描かれています。それはもう、本当に手にとるようなわかりやすさで、ひたすら生真面目ですから、編中、おふざけもありません。
 むしろ、重い雰囲気に包まれているので、映画を観ながら、この作品をどう受け止めていいのか分からなかったのですが、ラストシーンで、もはや症状が絶望的になった夫(渡辺謙)と、それを潤んだ目で、しかし、優しく見つめる妻(樋口可南子)との終わりなき明日に向かう姿を見て「なぁーんや、これ、夫婦善哉やったんかいな」と理解速度の遅いボクはハタと思い当たりました。



 もう企業戦士(古語?)を絵に描いたような広告マンの夫、専業主婦の妻。二人は学生時代、陶芸を通じて知り合って結婚し、一人娘(吹石一恵)は結婚する年ごろになっています。この娘、できちゃった婚をするのですが、ちゃんと現代風俗を取り入れています。
 50歳を目前にした夫はよく物忘れに襲われるようになります。広告の一大プロジェクトが立ち上がったばかりの大事な時期なのですが、病院で診察を受けると若年性アルツハイマー病という診断が下されます。俄かに現実を受け入れられない夫。それでも病状は進行し、クライアントとの約束の日時を忘れたり、東京・渋谷の駅頭で自分が今、どこにいるのか分からなくなったりします。

 病状を知った、同期でもあるらしい上司(遠藤憲一)から、それとなく退職勧告を受けるのですが、娘が結婚するまでは会社の人間でいたいと願う彼は部長職を離れ、課長代理という降格した役職で閑職の資料室に回されてしまいます。このあたり、いかにも会社人間で生きてきた人物らしいですね、降格されてでも娘の結婚までは会社員という身分にしがみついているというのは。そんな彼を見て「早く鎧を脱いでもいいのに」と思ってしまいます。
 やがて、おなかを大きくさせた娘が結婚式を迎え、父親のいない結婚相手(坂口憲二)に頼まれ、披露宴で彼は親族代表として挨拶に立ちます。このシーン、泣かせどころになっています。
 前もって用意してあった挨拶文をトイレに忘れたため、彼はぶっつけ本番で挨拶することになります。果たして、うまく挨拶ができるのかどうか、横に立つ妻同様、病気の進行具合を知る観客もハラハラさせられますが、どうにか無事、挨拶をし終えて夫婦とともの観客もホッとします。

 娘の結婚後、彼は退職し、部下たちに見送られながら会社を後にします。以後の彼は病気のため、ほかの仕事に対応することもできず、自宅で過ごすことになります。でも、夫婦二人でまだまだ生きていかなければなりません。
 そこで「かぁーちゃん、働く」の巻になります。夫が働けないのなら、今度は妻の出番です。
 妻は高級陶器店を経営する友達(渡辺えり子)に頼み込み、その店で働かせてもらうようになります。最初は事情を知らない友達も「専業主婦が軽く考えないで」と反発しますが、1年後、妻は新規出店の支店を任されるほど働く女性としての成長を見せます。
 でも、このあたり、非常に現実性が薄いですね。困った時の友達頼みというか、ドラマでよくやる手ですね。友達の紹介でとか、友達に誘われてとか、現実にはそうそう転がってはいません、友達に頼んで職に就けるということは。でも、この映画では転がっていました。この妻の年齢や経歴から考えても、こじゃれた陶器店の販売員よりもスーパーのレジ係のほうがよほど現実味がありそうなのですが、なぜか、妻はおしゃれなキャリアウーマンっぽく成長してゆきます。
 この映画が、本当に映画らしくなるのは、この「かぁーちゃん、働く」の巻の後半からですね。やはり、女性がドラマの中心に来ると、が然面白くなりますよね、こういう「かぁーちゃん頑張る」映画っていうのは。前半は夫が病気に至るまでの、若年性アルツハイマー病の症状を紹介しているような告知映画に過ぎません。
 妻を演じている樋口可南子を映画で久しぶりに観ましたが、力まず、さりげなくの演技で、そのさりげなさがいいですね。

 ところで、これもハタと思い当たったのですが、この映画、独身男性、あるいは独身女性が病気になる主人公だったら、どうだったでしょうか。
 この映画はたまたま夫婦が登場し、夫が病気になっても妻という介護してくれる存在があったからこそ、夫も病状は進行するものの救われている部分があるのですが、これからの社会、独居人間がますます増えてくると思います。単に結婚しない男女の増加というばかりでなく、結婚していてもパートナーとのさまざまな別離で独居を強いられる人たちもますますの高齢化に伴って同様に増えてくるでしょうから、そんな独り身の人間がもし、アルツハイマー病や認知症になった時、あなたは・・・・・・??
 この映画の恐さは、映画以外のそんなところにありました。
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