2013-10-24

 豆腐屋の味だった「青春放課後」

              青春放課後1 131014
              (右から)小林千登勢、宮口精二、西口紀代子

 NHKでよく放送されているアーカイブ番組。膨大な残存映像の中から何かにひっかけて再放送される番組枠でおますが、先日の体育の日の朝、小津安二郎監督が長年住んでいた神奈川県鎌倉市のお友達の一人で、自身の映画でもしばしば原作、原案として協力していた作家の里見弴と共同で脚本を執筆したドラマ「青春放課後」が放送されました。
 小津安二郎があの世に旅立つ半年前の放送で、1963年の作品。まさに半世紀前の作品で、小津の珍しいテレビ作品に驚くより、「よ~う残っとったな」と、そちらの方が驚きでおます。というのも、フィルム作品ならともかく、当時のスタジオ収録作品の多くが生放送だったため、ソフトとして残せなかったことがしばしばテレビ関係者の回顧談として聞かされ、番組を収録するビデオテープがまだ高価だったため、テープに録画しても次の番組で上書き保存されていたからでおます。
 1963年といえば、日本でテレビ放送が始まって、およそ10年。スタジオ制作のドラマ、バラエティー番組はまだ保存ができなかったのですな。たまに古い作品が掘り起こされるというのは、使い回しのビデオテープから洩れていたのかな?

 さて、「青春放課後」、小津さんがよく言っていた「豆腐屋はカンモは作れてもトンカツは作れねぇ」の言葉通り、「お茶漬の味」ならぬ「豆腐屋の味」でおました。
 京都で大学生活を送った教授の宮口精二と会社重役の北竜二が出てきます。宮口精二といい、北竜二といい小津映画の常連でおますが、このおっちゃん2人に絡むのが京都から東京へ遊びに出てきた小林千登勢でおます。この時代、おっちゃんたちが大学生活を送ったのは逆算すれば、小津映画の大学物の時代かなと推測されます。






 娘の母親は京都で小料理屋を経営してはります。昔は舞妓をしていたらしく、その時代がおっちゃんたちの大学時代に当たるわけで、よく座敷へ呼んで遊んだらしおます。今ならキャバクラ感覚ですな。せやけど、昔はキャバクラなんてお手軽な遊び場所はおません。舞妓を座敷に呼ぶなんてことは今なら金がかかりすぎて貧乏な学生のできることではおませんが、昔はわずかな花代で手軽にできたんでおますやろね。
 その舞妓を若かりしころのおっちゃん2人は惚れていたらしく、恋のライバルでもあったことがおっちゃんたちの昔話の中に出てきます。娘の母はシングルマザーだったらしく、娘も実の父親は知りまへん。「そんなことどうでもよろしおますがな」と一見、娘はあっけらかんとしていますが、おっちゃんたちは心中、穏やかでありまへん。だから「ひよっとして、あの時か……?」などと危ないセリフも飛び出しております。
 おっちゃんたちの恋の相手だった元舞妓の小料理屋の女将に扮しているのは西口紀代子。この時代、よくNHKのドラマに出ていた脇役専門のおばちゃんでおます。娘の小林千登勢があやしい京都弁をしゃべっているのに反し、この女優さんの京都弁は聞いていて心地いいほど堂にいってはります。
 出演シーンこそ少ないのでおますが、おっちゃんたちのささやかな隠し子騒動のキーパーソンになる役柄なのに「何で脇役のおばちゃんを?」というのが配役の不思議さ。のちに北竜二がちょっと好意を寄せ、ひさごのかんざしを贈っている旅館の女将役で藤代佳子が出てきてますが、藤代も京都弁ができる人なので、むしろ藤代の方が……と思ったものの、この女将の存在は藤代では色が濃すぎるなと思い直しました。出番が少しなので、芝居をしすぎては駄目な役柄なんでおますな。あくまでサラリとしたキャラだったのでおますやろ。藤代佳子は加藤泰監督の「怪談お岩の亡霊」(1961年、東映)でお岩を演じている女優さんでおます。

 宮口精二、北竜二のほかに、小津映画の常連さんはまだまだ出てきはります。
 宮口さんの奥さんが三宅邦子、北オヤジの奥さんが杉村春子で、この2人が亭主が留守している間、茶の間で亭主の昔話で盛り上がっているシーンはちょっとした「お早う」(1959年)でおます。杉村さん、町内会費を紛失はしませんけどね。
 上京してきた小林千登勢が寝泊まりするのが北オヤジんちで、小林さん、前夜、酔っ払って帰り、遅い朝を迎えたこともあり、口うるさい杉村おばさんが苦手でおます。逃げるように京都から東京へ出てきている友達の家を訪れますが、友達には友達の生活があり、行き場をなくしたりします。
 北オヤジの秘書を務める若い男性が登場します。これが佐田啓二。このドラマの翌年、交通事故死してはりますが、小林さん、ほのかに佐田君に好意を抱きます。このあたりの内に想いを秘めた若い女性の造型は小津安二郎の独壇場でおますな。
 そして、秘かに失恋してしまうのも、また独壇場。佐田君にはすでに同棲している稲野和子がおり、それを知った小林さんは誰に打ち明けることもなく、佐田君への秘かな想いは消滅してしまいます。これは「晩春」(1949年)で」父親の助手の宇佐美淳にほんわか想いを寄せながら彼の結婚を知る原節子、「秋刀魚の味」(1962年)で兄の後輩の吉田輝雄に想いを寄せ、彼に婚約者がいることを知る岩下志麻などにも通ずることで、恋愛ということに関しては小津作品のヒロインは悲劇の女性でおますな。
 ただ、ヒロインが想いを寄せた相手に婚約者がいることを、ヒロインが周囲から教えられる以前に周囲が知った時には既にヒロイン自身が知っていたという設定は、わずかにヒロインの失恋の痛手への自尊心を慰める作りになっており、だからこそ、ヒロインに打ちのめされた感じはおません。また、失恋を経験したヒロインがそのことに触れることなくドラマが終了しているのも共通点でおます。

 こうして見ていくとドラマの登場人物、エピソードの多くが、かつての小津映画で散見される人物、エピソードが散りばめられており、だからこその豆腐屋の小津さんなのでおますが、そういえば小林千登勢の存在が「彼岸花」(1958年)の関西のおねえちゃん、山本富士子に「晩春」の原節子をミックスさせたようなヒロイン像なのでおました。




 
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