2013-05-25

成瀬の男と女以前は「秋立ちぬ」

              秋立ちぬ130525

 常に男と女の離れがたい気持ちを描いてきた成瀬巳喜男監督の1960年の東宝映画でおますが、少年(大沢健三郎)が大人の世界を垣間見る映画(脚本=笠原良三)でおます。
 大人には子どもには分からない複雑な事情があり、それに嫌が応でも子どもが巻き込まれていくというのは、この作品の1年後になる田坂具隆監督の「はだかっ子」(1961年、ニュー東映)と同じでおます。当時、まだ物の道理もわかるはずもない、ほんのガキの小学生だったボクは、学校の視聴覚教育の一環で、この「はだかっ子」を町の映画小屋に観に行った記憶はおますが、同じような「秋立ちぬ」は観せられた憶えはおません。

 父を亡くし、小学6年生の大沢健三郎が母親の乙羽信子に連れられ、銀座近くの昔ながらの商店街で昔ながらの八百屋を営んでいる伯父夫婦(藤原釜足・賀原夏子)を頼って長野から東京に出てきたところから映画は始まります。
 主役の少年は当時の児童向け雑誌のモデルとしてよく出ていた男の子で、設定の1960年、つまり、昭和35年で小学6年生というと団塊の世代の生まれとなります。少年の生まれは昭和23年と思われ、この少年がのちに親しくなる女の子(一木双葉)も登場しますが、この女の子は小学4年生で、少年とは2歳違いというわずかな差ながら団塊世代ではおません。しかし、いずれも現在では定年世代ということになります。
だから、今では孫ができているかもしれない年代でおますな。




 少年と母親は東京へ出てきて、ひとまず母の兄が営む八百屋に厄介になるのでおますが、銀座に近いとはいえ、その八百屋のたたずまい、周辺はそっくりそのまま、いつもの成瀬映画でおます。さすがに商店街の売り出しのチンドン屋こそ登場しませんが、出てきてもおかしくない風景でおます。
 大沢君は叔父さんちに世話になることになり、母親は八百屋が品物を納めている得意先の旅館で住み込みの女中になります。
 釜足おじさんは店の維持だけで精いっぱいの感じで、おばさんの賀原夏子もしょっちゅうグチってはいるものの、どちらも悪い人ではおません。子どもが2人おります。息子の夏木陽介は店の仕事を継いでおり、娘の原知佐子はデパート勤めをしております。大沢君のいとこに当たる、年上のおにいさん、おねえさんでおますな。
 乙羽さんが住みこんだ旅館の女将、藤間紫の子どもが大沢君と仲良くなる女の子で、映画の冒頭、大沢君が母親と叔父さんちの八百屋に向かう途中、大沢君と女の子はすれ違ったりしとります。紫かあさんは大阪に住む社長の河津清三郎の愛人で、女の子は2人の間にできた子どもであることがやがて分かります。

 大沢君は陽介にいさんのしりにくっついて店の手伝いをしながら徐々に東京暮らしになじんでいくのでおますが、母親の乙羽さんのほうは時々、商用で上京し、旅館に滞在する常連客の加東大介と親しくなっていきます。子どもを抱えた女ひとりが今後どうやって生きていったらいいのか、そういう不安もあるのですやろね。
 紫さんが経営する旅館のほうも持ち主で紫さんの旦那の河津さんの発案で、古くなった旅館を売り払って引っ越そうという話が持ち上がっています。

 いずれも大沢君と双葉ちゃんにとっては大人の事情で、知る由もおません。彼らは徐々に仲良く遊ぶようになり、海を見たいという大沢君は双葉ちゃんに連れられ、そのころ、まだ埋立地のまんまだった晴海にでかけ、岩場から転んだ大沢君が足をねんざし、帰りが遅いのを心配した大人たちを慌てさせたりします。あるいは、双葉ちゃんは都会育ちらしく、億することなく大沢君を連れてデパートへ行ったりします。そこは知佐子ねえさんの勤めているデパートで、銀座にある松屋であることが画面にさりげなく写るロゴマークから分かります。

 ところで、大沢君は双葉ちゃんと親しくなるとともに、近所に住む同じ年ごろの少年たちとも知り合います。銭湯で顔を合わせて悪ふざけをしたり、草野球に誘われ、フェンスに囲まれた空き地で野球に興じているところを見張りのおっちゃんに追い出されたり、子どもらしい生活ぶりも描かれます。
 ここんとこ、小津安二郎監督だったら少々横道にそれてでも子どもたちの遊びをギャグ満載で見せて笑わせるシーンでおますが、成瀬巳喜男監督はあくまで大沢君の生活の一部分としての点描にすぎず、これは小津と成瀬とのキャラの違いでおます。

 さて、双葉ちゃんは夏休みの宿題の昆虫標本のためにデパートに行ったのでおますが、昆虫をデパートで買うあたりも都会っ子でおますな。田舎育ちの大沢君は目を丸くし、「カブトムシくらいなら俺が…」と双葉ちゃんに約束したことから、以後、ラストに向かって大沢君は独り取り残されるようになります。

 ある日、乙羽さんが蒸発してしまいます。常連客の加東さんと離れられなくなり、駆け落ちしてしまったんですな。母親としてより、乙羽さんは女性としての生き方を選んだわけで、周囲の大人たちは大沢君には知らせないまま、大沢君は事情を知らないうちに母親に取り残されてしまいます。
 双葉ちゃんと約束したカブトムシを捕るため、大沢君は陽介にいさんとカブトムシがいそうな林へ連れていってもらう約束をしていたのでおますが、いざ出発となった時、陽介にいさんは友達からバイクをぶっ飛ばしに行こうと誘われ、遊びに行ってしまいます。もうすぐ夏休みも終わるという時期で、双葉ちゃんとの約束も果たせないまま、大沢君は陽介にいさんにも取り残されてしまいます。
 
 そして、最大の取り残され事件は双葉ちゃんとの別れでおます。
 どうにかこうにか偶然、カブトムシを捕まえた大沢君は大急ぎで双葉ちゃんちに駆け付けるのでおますが、既に双葉ちゃんは母親とともに旅館から引っ越した後でおました。掃除のおばさん(菅井きん)がいるきりで、旅館からは家財道具も持ち出されており、大沢君は事情を知らないどころか、双葉ちゃんから別れの言葉もないまま、取り残されてしまったのでおます。

 いつもの成熟した男と女の出会いと別れを描く成瀬映画とは異なり、まだ思春期にも至っていない男の子の子どもらしい遊びを通して女の子へのほのかな思いをそれとなく感じさせる監督自身のプロデュース映画でおますが、都会育ちだからというのではなく、この時期の女の子って、まだ子どもっぽいままの男の子より成熟しているというか、マセているというのか、自分の子ども時代の親しくしていた女の子を思い出させる作品でおました。


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