2013-05-16

「東京の女」で新時代の女子像か

              東京の女130515

 タイピストとして会社勤めをしている岡田嘉子と大学生の江川宇礼雄のきょうだいが、都会の片隅で暮らしている中で、やがて悲劇に見舞われるお話の映画で、小津安二郎監督が1933年に製作したサウンド版の松竹蒲田映画でおます。
 資料を繰ればサウンド版とおましたが、ボクが観た生誕90周年の記念放送時に録画しておいたビデオでは無音でおました。当時のサウンド版って、まだフィルム両わきの穴部分は使われていなかったんやろうか。

 さて、わずか50分に満たないドラマ(脚本=小津安二郎、池田忠雄)で、タイピストの岡田嘉子を優しく、きれいな姉と慕っていた弟の江川宇礼雄が姉が昼間の仕事を終えると、いかがわしい酒場女のサイドビジネスをしていたことを知って姉と言い争いの揚げ句、家を飛び出し、ショックを受けた弟は自殺してしまい、弟のなきがらを前に姉は「私の気持ちを分かってくれなかったのね」と泣き暮れる、何とも救いようのないお話でおます。

 ところが、放送された分を観る限り、岡田嘉子が「私の気持ちを分かってくれなかったのね」と言う、そのなぜなのかがよく分かりまへん。
 ある日、姉の勤務する会社に姉について聞き合わせするため、所轄の警官が訪ねてきます。昼間は明るい様子でタイプをパチパチやっている彼女が夜は酒場に出入りし、ブラックリストに載っているというのでおます。ブラックリストて、そんな風紀上、問題ある人物を警察はいちいち調べ上げてリスト化してたんかいなでおます。







 さて、弟の江川君には近所に住んで仲良くしている娘、田中絹代がいてはります。彼女の兄(奈良真養)は巡査をしており、ある夜、絹代さんは兄から江川君の姉の芳しくない風評を聞きます。「一度、僕から言ってみよう」と言う兄を差し置き、止せばいいのに絹代さん、「あたしから言うわよ」とでしゃばり、ここで江川君と絹代さんが仲違いしてしまうタネが蒔かれるんですな。

 きょうだいが住むアパートを絹代さんが訪ねると、姉の嘉子さんはまだ帰ってきとりまへん。部屋にいた江川君は姉が夜間は大学教授の翻訳の手伝いをしていると常々、姉から聞かされていたことを信じて疑ってまへん。そこで、絹代さんは嘉子さんの風評を江川君に伝えるんですな。驚いた江川君、逆に「君は姉をおとしめるのか」と怒りだし、そんなことを伝えにきた絹代さんを許せず、追い帰してしまいます。
 冗談話を聞かせるのではなく、人の名誉に関わることを話すのに話の仕様もあるのに、絹代さん、まだ若いから知りまへん。考えが至らないのですな。
そんな
 絹代さんを追い帰した後、嘉子さんがいつものような明るい表情で帰宅します。しかし、江川君の表情は暗いのでおます。そこで江川君は絹代さんから聞いた噂のことを嘉子さんに問いただします。どうしたわけか、嘉子さんには悪びれた様子は見えません。「そんなこと心配しないで、あんたはしっかり勉強してたらいいのよ」と言う始末でおます。江川君、激昂して姉を殴り、そのまま部屋を飛び出してしまいます。
 そして、翌日、もたらされた弟の死。遺体を前に嘉子さんと絹代さんは悲嘆に暮れるのでおます。

 嘉子さんが、なぜ、サイドビジネスをしていたのか。いかがわしい酒場に出入りするばかりでなく、どうやら売春もしていたようでおます。もし、弟の学資稼ぎのためにサイドビジネスをしていたなら、弟に問いただされた時、嘉子さんはそれなりの反応を見せ、訳も話して反省もするはずでおます。
 ところが、そんな素振りもなく、嘉子さんはむしろ堂々としてはります。その不可解な態度が余計に弟の怒りと混乱を招き、ひいては自殺への道筋をつけたのでおますが、弟が死んで嘉子さんの「私のことを分かってくれなかったのね」でおます。

 実は、嘉子さんは共産党のシンパで、党の資金稼ぎのためにサイドビジネスをしていたということが隠されとります。無知な女が党員の誰かに理想を吹きこまれ、その理想の実現のためにと燃えたのか、それとも党員の誰かを好きになり、その彼氏のために一肌脱いだのか、それはわかりまへん。
 いや、そもそも、その隠されたことは録画されているビデオを観る限り、嘉子さんの正業と副業の生活がなんのためなのかが分かりまへん。

 嘉子さんは昼間はまっすぐな長い髪を日本風にひっつめ髪にして働き、ちょっとだけ売春窟らしい場面も出てきますが、その時の嘉子さんは安っぽいヒラヒラの着物にソバージュのようなオカッパ頭で出てきはります。昼間はアップにこそしてあれ、まっすぐなロングヘアなのに、夜は短いソバージュって……あれってウイッグなの? なんでおますな。
 昼と夜の落差が大き過ぎ、そこに嘉子さんの心の中に何にも触れられていませんので、嘉子さんはジキルとハイドなんかいな、でおました。


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ご無沙汰です。

ブログは読んでいるのですが、コメントは久しぶりです。

サウンド版なのに、なぜサイレントなのかを推測すると、松竹では小津を含む戦前作品のほとんどが16ミリポジフィルムで保存されていて、現在、上映されているフィルムは、そこから35ミリにブルーアップ、もしくは16ミリの複写のはずです。ネガがあれば別ですが、音を残すには別に音ネガを作らなければならず、恐らく経費の削減で、16ミリの保存フィルムを焼く際に、サウンド部分を削ったのではないでしょうか。

たぶん、同時期に作られた『伊豆の踊子』などのサウンド版も、サイレントしか残っていないはずです。

もっと、もっと・・・・・・

ラーメン好きの友人さんへ

 サウンド版について、ご教示ありがとうございました。

 ひさしぶりにコメントを送ってくださる人がいて、このブログのオーナーは感激しとります。

 ホンマ、訪れてくださる人が多いのに、コメントが極めて少ないブログでおます。

 もっと、もっと・・・・・・はぁ~
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