2013-02-06

天津敏も出ていた「渡り鳥いつ帰る」

              渡り鳥いつ帰る130205

 久松静児監督といえば、今では古い日本映画がよほど好きな人ででもないと、その名前は知られていないと思いますが、映画が撮影所から工場製品のごとく生み出されていた時代、それは日本映画の撮影所体制がゆるぎもしない時代でおますが、一匹狼として映画各社を渡り歩いた映画監督でおます。
 先日、酒の友にコレクションから取り出したのが、その久松監督の1955年の作品「渡り鳥いつ帰る」(東京映画、東宝配給)でおました。

 売春防止法が施行される以前、昭和27(1952)年ごろこの東京・向島の「鳩の街」と呼ばれた赤線ゾーンのお話でおます(原作・永井荷風、構成・久保田万太郎、脚本・八住利雄)。
 森繁久弥扮するとうさんは、売春宿のオヤジでおます。巻頭、その玄関を掃除していた田中絹代のかあさんは、お手伝いのおばさんと思いきや、とうさんを尻に敷いている欲深な女将でおました。
 表通りに面した玄関こそ、タイル張りの洋館風の宿も中はまるっきり日本家屋で、昔ながら襖で仕切られた女の子たちがおシゴトする部屋も畳敷きで、施錠システムなんぞおまへんから、いつでも出入り自由。プライバシーはあってなきがごとし。せやから、主人夫婦が勝手に女の子の持ち物を物色したり、新規に入店した女の子が先輩の金目になるようなものを失敬したりしています。
 
 抱えの女の子は、年老いた母親(浦辺粂子)とまだ小さい娘を養わなければならない久慈あさみ、大金を貢いだ男(植村謙二郎)の帰りをひたすら待つ病身の桂木洋子、若手の淡路恵子は売れっ子ながらチャッカリしており、かあさんの鼻をあかすため、とうさんを色仕掛けで操り、鳩の街を去っていきます。
 ほかに北海道の札幌から当時はまだ珍しかった飛行機で東京へ来たという高峰秀子は食ってばかりの女で、自分の部屋も他人の部屋も区別なく、その上、少しもおシゴトする気はあらしません。借金で女性を拘束できなくなった戦後ならではの一面でおますな。おシゴトをする女の子たちに宿の主人は部屋を貸すという戦後のシステム上、女の子が働かなくてもムチでしばくこともできまへん。
 もうひとり、鳩の街から足を洗った岡田茉莉子も出てきて、女たちのドラマにかかわってくるのでおますが、さながら女優競演でありながら、いかにもな雰囲気がないのがよろしおます。 

 森繁のとうさん、実は悩みを抱えてはります。だから、終始、ウジウジと冴えない顔をしています。





 その悩みとは、東京大空襲で生き別れになったままの娘のことでおます。戦争前、とうさんはクリーニング店を経営していたそうでおますが、空襲の時、バクチのためにでかけていて、そのため、女房の水戸光子とも娘とも生き別れになり、それが生きていることが分かり、女房に未練はなけれど、できるなら娘は引き取りたいと思っており、だから、ウジウジしとります。

 女房の水戸光子は空襲で逃げ延びた先で妻子を失った織田政雄と知り合ったのが縁で、男と夫婦同然になり、おでん屋をしながら娘を育てております。娘は織田さんになついているのでおますが、まだ森繁とは籍が同じのため、織田さんと正式に夫婦になれしません。だから、早く森繁さんに離婚届の判を押してもらいたいというのが、こちらの悩みでおます。いつもは生活に疲弊した役ばかりの織田政雄、ここでは見違えるようなええ役を演じとります。

 かあさんの田中絹代はそのあたりの事情を知っており、ウジウジとうさんに早く判をつけ!とけしかけていますが、かあさんもビクビクしとります。なぜなら、娘に事よせて森繁が水戸光子とヨリをもどしたいのではないかと疑っているからでおます。
 亭主がウジウジしていても、かあさん、とうさんに惚れているのでおますな。映画の最初のほうで、この2人が部屋を出てきた時、かあさんがとうさんに「今夜、いじめてやるから」と言うシーンがあり、さりげなくかあさんの思いが描かれとります。
 同時に、何とも笑えるセリフでおます。森繁久弥と田中絹代が同禽したら……?? ふと、いらぬ想像をかき立ててしまうようなセリフですなぁ。

 とうさん、淡路恵子のお色気作戦で女が鳩の街から逃げ出すダシに使われたと知った後、ヤケになって酔っ払い、飲み屋で労働者風体の男たちとケンカになってしまいます。
 酔っ払った森繁に絡む男たちの一人をみているうちに、ああ……!
 天津敏ではおませんか!
 後年、東映の着流し映画で大ワルとして名を馳せた、あの天津敏でおます。その少し前なら大瀬康一主演のテレビ映画「隠密剣士」で主役の秋月新太郎の宿敵・風間小太郎に扮していたおじさん。さらに、その前なら宣弘社製作の「ジャガーの眼」のワルですな。
 こういうところ、古い映画を観る楽しさのひとつでおますな。

 ところで、とうさんは労働者たちとケンカした後、子どもに会いに行くのでおますが、ラチは明きまへんん。仕方なく印鑑を渡して逃げるように立ち去ったのはいいけれど、酔って橋の欄干から滑り落ち、水中へまっさかさまに……。
 同じころ、待っていた植村謙二郎から別れの手紙が届き、絶望した桂木洋子と、淡路恵子に入れ上げて店の金を使い込んでいた時計屋の青年・加藤春哉はどちらも死ぬ気になり、河原の土手に来ていたところ、大きな水音に青年が橋上へ様子を見に来ると誰かが溺れてます。しかし、助けたら警察の事情聴取から使い込みがばれると恐れた青年はそのままトンズラをかまします。土手には息絶え絶えの桂木洋子が残されたままでおます。
 意外なてん末でおます。それぞれ、全く事情は違ったのに、とうさんと抱えの桂木洋子との心中とみなされ、仏さんたちも意外な展開だろうと思いますが、このくだりはまるで笑いを呼び起こしそうな歌舞伎の舞台を観ているようでおました。

 それでも、かあさんは強い!
 亭主が店の女と一緒に死んでも「死んでしまったら罪はない」と割り切り、商売に励む姿勢を見せているのでおますからね。
 病気休養していた久慈あさみも子どもの交通事故で治療・入院費が必要になり、まだ体は快復しないまま店に出るのでおますが、復帰最初の客になった藤原釜足、ちょこっと出てくるだけなのに、さすがですな。
舞台なら掛け声の掛かる出を見せてはります。



 
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