2012-09-17

幕末のロードムービーは「三萬両五十三次」

              三萬両五十三次120917

 剣戟スター・大河内傳次郎が戦後、主演俳優として活躍した末期の大映時代劇でおます。
 「銭形平次捕物控」の野村胡堂の原作を、大映映画の何でも屋だった木村恵吾が脚色・監督した1952年の作品で、このころ、大河内は大映時代劇の一翼を担う戦前派スターでおました。というより、市川雷蔵や勝新太郎などの戦後派はまだ誕生していなかったころでおます。

 戦前の日本映画の製作会社統合により、松竹、東宝、大映の各社に分かれていた大河内や阪東妻三郎、片岡千恵蔵、市川右太衛門、長谷川一夫などの時代劇スターたちは、このころ(1940年代末)、日本の敗戦によって所属を一度ご破算したかのように大映時代劇でシノギを削っておりました。
 やがて、長谷川一夫を残し、それぞれ松竹や新会社の東映に散っていくのでおますが、ちょうど、このころが大河内傳次郎の主役時代の最後のころにあたり、ほかのスターたちが依然、主役を張る中にあって、大河内は次第にワキの重鎮としての座を占めるようになってゆきます。

 華々しい戦歴を持つ主役スターがワキに回っても俳優を続けていたのは、一説には自分の庭園(嵐山の大河内山荘)の造園資金のためと言われておりますが、かつて無声映画の時代から目を見張るような激しいチャンバラを見せていた大河内も「老けた」だったんでおますやろね。ほかのライバルスターたちがなおも派手なキャラクターを押し出している中で、経年とともに大河内に自然に備わってきた渋さと落ち着きが、チャンチャンバラバラの剣戟スターに要求される派手さを阻んだのでしょうね。

 「三萬両五十三次」でも大河内の渋さ満載で、同時に彼の持ち味でもあった二・五枚目のキャラクターも生かされている時代劇でおます。
 ちなみに、この映画は7年後の1959年に東映で再映画化(監督・小沢茂弘)されとりますが、この時は97両も増額されてタイトルは「百万両五十三次」。
 なんでやねん?







勤皇倒幕の物情騒然の幕末、老中・堀田備中(沢村国太郎)は京へ送る金三万両の運搬責任者に、周囲からは「ひょうたん」とあだ名されるほど軽んじられている旗本、馬場蔵人(大河内傳次郎)を選任します。京へ送金するのは倒幕派を買収するとかで、まだ銀行も郵便局もネットもない時代でおます。たとえ一両でも送るとなると人間が運んでいかなならしまへん。江戸から京までの東海道、何が起こるか分からしまへん。そこで秘かに見込んでいた蔵人を選んだのでおますが…。

 ところが、選ばれたほうの蔵人さん、酒好きで日々、酔っている毎日。おまけに「ひょうたん」とあだ名されるくらいですから、無類の瓢箪好きで、たまたま知り合った矢場の女将のお蓮(轟夕起子)から珍しい瓢箪を譲り受け、大喜びで京へ向かいます。
 またまた、ところがで、この三万両を狙って盗賊の牛若の金吾(加東大介)や侍(河津清三郎)が暗躍します。ここに、お蓮や武家娘の小百合(折原啓子)も加わり、てんやわんやの東海道五十三次でおます。
 お連は金吾から、蔵人に譲った瓢箪が一万両の値打ちがあると聞き、瓢箪を取り戻すため。武家娘は堀田備中の家老(香川良介)の娘で蔵人を慕っており、嫌いな婚約者から逃れるため、行列を追いかけます。金吾も人のいい盗賊なのか、道中、なかなか公金を横取りできまへん。

 小百合に嫌われた婚約者というのが侍で、この人、どうも粋(すい)やおまへん。仲間と示し合わせて三万両をネコババするつもりの一方、小百合を取り戻したいの、憎い恋仇の蔵人の命を狙いたいのの欲の二股道を突っ走っとります。殊に、「あんたは嫌いやねん」と女が言っているのに、諦めきれず女の尻を追いかけてどないすんの? でおますな。
 この映画の前年、大河内は大仏次郎の原作を映画化した森一生監督の「ごろつき船」に主演しとりますが、ここでも一人の女(相馬千恵子)を狙ってワルの月形龍之介が出てきます。彼も「大河内さんのほうが好きよ」の女に嫌いに嫌われ、それでも女へのおっかけはやまりまへん。とうとう、最後は大河内に斬られて死んでいくのでおますが、月形さん、死に際にまで好きな女の名前を呼びながらこと切れます。
 同じ嫌われても、ここまで徹底してたら立派でおます。嫌いな男でも、ここまで好かれたら女のほうも惚れられ甲斐があるもんでおますな。「三萬両五十三次」の河津清三郎のワルにも、ここまでのしつっこさがあればね、このブログで褒めてあげたのに……。

 そんな中で蔵人は、堀田備中が見込んだ通り、締めるところは締め、抜けるところは大いに抜けて大河内の二・五枚目のキャラクターが大いに発揮されとりますが、みものは大河内の立ち回りでおます。跳んでいるんでおますな。刀を構えて相手に斬りかかると同時に足元は跳躍し、スパッと斬るというより、刀を相手の体に打ちつけ、その衝撃で相手は倒れ込むというような立ち回りでおます。
 こんなのを見ていたら、チャンバラトリオの南方英二が生前、東映の斬られ役時代、大河内と絡んだ時、生傷が絶えなかったと述懐していたのも、うなずけるもんでおます。

 蔵人はめでたく三万両を京へ届けるのでおますが、その時には堀田備中も海路、京へ入り、二条城で蔵人と対面するのでおますが、ここはちょっと、船で来られるなら一緒に三万両も積み込んで運べばよかったのに…とツッコミを入れたくなるラストでおました。

 沢村国太郎、轟夕起子、加東大介、河津清三郎に家老の妻で小百合の母親役でマキノ智子も顔を出しており、なぜかマキノ省三・雅弘のマキノ色の強い配役でもおました。


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