2012-06-27

不思議なスター・健サンの「非常線」

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 マキノ雅弘監督、沢村勉・中田竜雄脚本、三村明撮影で、1958年の東映東京作品でおますが、主演の高倉健、改めて不思議な俳優でおますな。

 東映の第一期ニューフェイスで、この作品の2年前(1956年)、空手映画二部作(「電光空手打ち」「流星空手打ち」=いずれも監督・津田不二夫)で主役デビューしとりますが、いかんせん60年代半ばの「日本侠客伝」シリーズ、「網走番外地」シリーズでブレイクするまでは鳴かず飛ばず。それでも主役の座は維持し、単独主演の映画のほか、片岡千恵蔵や鶴田浩二のギャング映画、あるいは美空ひばりの相手役として準主演で映画街道まっしぐら。
 不器用そうで演技派でもなし、ぶっきらぼうな口調、身長はあるものの、小顔ばやりの昨今、はやらない大きな顔、決して都会風ではない野暮ったい風貌などなど、現在はかつてのきらめく星座のようだった映画スター生き残りの大物俳優として希少価値的な存在になっとりますが、この作品前後の健サンを見ていると、よくもまぁ、息の長いこと、とびっくりさせられます。

 でも、スターなんでおますな。
 俳優になりたてのころから主役を張っていた俳優と、長い苦労の末にようやく主役の座を勝ち取った俳優とでは確実に異なるものがあるのは、多くの主演スターを見れば歴然でおます。
 それは演技力ではおません。演技力をもってしても、絶対手に入れられないもの――「華」でおます。
 出てきただけで、辺りがパッと明るくなるような、見る人をして目をくぎ付けにさせずにはおかない雰囲気、これは最初から主役で出てきて長く主役を維持していないと出るものではおません。
 だからこそのスターなんでおますな。



 マキノ雅弘が、かつて自伝「映画渡世・地の巻」でこぼしていたように、このころのマキノ雅弘は弟のマキノ光雄が製作総責任者だった東映で製作費に安い、それでいて稼げる映画をつくっていたころでおます。だからこその、すぐに撮影開始ができるように、かつての自作映画の再映画化も多い時期でおました。

 この「非常線」もリピート作品の一本でおます。もとの映画は1947年の松竹映画「非常線」で、リピート作で藤田進、高倉健が演じた兄弟を水島道太郎、原保美が扮しとります。
 暗黒社会に片足を突っ込んでいるような歓楽街にあるキャバレーを舞台に、警察に追われるダメな弟を兄が何とか助けとうとするストーリーで、リピート作品では兄の藤田進ではもはや主役に持ってこれないので、ダメな弟の健サンが主役になっとります。そりゃ、製作会社専属の「明日のスター」でおますから、自社の若手俳優が主演であることは当然でおます。
 それで、マキノと健サンの初顔合わせ作品でもおます。

 全編、セット撮影で、カメラはキャバレーと階上のホテルだかアパートだか分別できない屋内からほとんど出ないまま、お話は進みますが、この手の映画では当時、日活アクション映画に大きく水を空けられていた東映アクション映画でおます。キャバレーの安っぽさはいいとしても、映画の雰囲気にキレがなく、比べればダサっぽさは観ていて面白いほど。マキノをもってしても東映のダサさは払しょくはできず、ここは深作欣二や佐藤純弥などの第二世代待ちというところでおますやろうか。
 映画を観ていくうちに、どうもアメリカのギャング映画っぽいストーリー運びが気になって後で調べてみると、やっぱり…。マキノ本人が子どものころに観たと語っているアメリカ映画「キック・イン」という作品が元ネタでおました。

 マキノと健サンが初めて顔を合わせた作品ではあるものの、後年のように伸び悩んでいる主役俳優をどうにかしたろか! というのはなく、次の顔合わせ作品である「千姫と秀頼」(1962年)まで、まだ4年という時間があり、さらにブレイクした「日本侠客伝」シリーズ(1964年スタート)までは6年、しばらく健サン苦闘の時代が続くのでおますな。

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 藤田進のほか、酒を密売している千秋実、キャバレー支配人の十朱久雄、宿泊人の謎だらけの男・岡田英次、暴力団組長の菅井一郎、モグリの産婆の吉川満子、管理人のおばちゃんの岡村文子、反旗を翻すホステスの月丘千秋、レズのダンサーの藤里まゆみなど、いつも脇役が面白いマキノ映画らしく、役者は曲者ぞろいでおます。
 健サンの恋人役には故里やよいが演じとりますが、やさしげな容貌が多かった東映の女優の中では珍しく日本人離れした容姿の女優で、もちろん、その名前からも分かるようにレビュー出身ながら、男優中心の映画会社では恵まれた資質は生かされるはずもなく、やがて……となった女優でおます。


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