2012-06-03

謎解きに挑んだ「若さま侍捕物帖 黒い椿」

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 大川橋蔵の「若さま侍」シリーズの第9作(1961年)でおます。
 橋蔵主演で1956年、第1作の「地獄の皿屋敷」(監督・深田金之助)に始まり、同シリーズは62年の正月映画として製作された「お化粧蜘蛛」(監督・松田定次、松村昌治)まで全10作が製作されとります。橋蔵以前にも城昌幸原作のこの作品は新東宝でも黒川弥太郎、あるいは坂東鶴之助(のちの故・中村富十郎)の主演で映画化され、橋蔵以降もテレビ映画として製作されとりますが、僕の世代では若さまといえば橋蔵でおます。

 この若さま映画、橋蔵主演になると、さながら市川右太衛門の「旗本退屈男」でおます。
 右太衛門の退屈男が日本のどこにでも出没し、美女に囲まれながら謎を解く旗本のお殿さまなら、橋蔵若さまも華やかに登場し、おねえちゃんたちに囲まれ、謎を解いているにいさんでおます。ただし、退屈男と異なるのは退屈男が旗本で、早乙女主水之介という名前を持っているのに対し、若さまの出自はさっぱりわかりまへん。
 若さまと呼ばれているから将軍や大名の落とし胤なのか、それとも旗本の部屋住み男なのか、それに名前は何というのか、橋蔵若さまは他人の謎を解いても遂に自分の謎を明かすことなく、シリーズは終焉を迎えたのでした。

 さて、「黒い椿」は伊豆大島へ保養の旅に出た若さまが、島のアンコで不幸な生い立ちに泣く娘さんのために謎解きに乗り出すお話でおます。

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 今回の悲劇のヒロインは、丘さとみでおます。
 当時、東映時代劇のニューウェーブと謳われた沢島忠監督が、シリーズ前々作「紅鶴屋敷」(1958年)に続き、本格ミステリーとして演出しとります。

 本格ミステリーを目指した映画でおますから、正月映画として製作されたシリーズ前作の「若さま侍捕物帖」(監督・佐々木康)のように若さま、美女たちに囲まれることはおません。
 絡んでくるのは島で唯一の旅館の女将さんだけ。

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 扮しているのは青山京子。1954年、谷口千吉監督の「潮騒」に主演し、いろいろな作品に出ていた東宝から東映に移籍し、ちょっと年増であだな役柄で橋蔵や大友柳太朗の相手役をしていた女優さんで、現在の小林旭夫人。結婚と同時に引退して、以後、原節子などと同様、記憶の中の人になってはります。

 本格ミステリーといっても、そこはユルユルで、女将さんのパトロンであり、悲劇のアンコにも触手を延ばそうとした網元(阿部九州男)が殺されたことから、さて、真犯人は? という犯人探しのお膳立てで、悲劇のアンコのために一肌脱いだ若さまの前には怪しい人物がウロウロ。
 椿油買い付けの商人(山形勲)、関西弁の旅館の番頭(田中春男)、島の坐女(金剛麗子)、船をただ乗りしてきた修験者(河野秋武)などがいる中、網元殺しの犯人として島民たちに追われるのが悲劇のアンコのおじいちゃん(水野浩)でおます。

 おじいちゃんと孫娘は昔から島民に冷ややかな眼差しを向けられており、というのも、おじいちゃんの娘(水木淳子)が、その昔、江戸から来た侍との間に子どもをもうけたため、島以外の男と乳繰りあったため、島民たちに非難された過去があり、侍に捨てられた娘の産んだのが悲劇のアンコで、生まれてすぐに娘は火口へ投身自殺を遂げ、以来、おじいちゃんは島民たちの冷たい眼差しをはねつけながら孫娘を育ててきたのでおます。その孫娘が今また、娘同様、江戸からきた侍(若さま)と親しくなって、おじいちゃんは混乱の極みでおます。

 演じている役者が水野浩という、善人役を得意とした人であれば、こりゃ真犯人とは違うわ~と観ているほうには分かるのでおます。そこをひっくり返して実はいつも善人役の役者を極悪非道の悪人に仕立て上げれば、当時の東映時代劇ももうちょっと面白くなったのでおますが、この意外な配役の妙は別の人で用意されていたというてん末でおます。

 ところで、水野浩、金剛麗子といえば、すでにあっちに引っ越して何十年という古い俳優でおますが、水野浩は稲垣浩監督の「無法松の一生」(1943年)で居酒屋のおっちゃんや、内田吐夢監督の「宮本武蔵 一乗寺の決斗」(1964年)で吉岡道場を失言で破門になる門弟を演じていた人で、金剛麗子は溝口健二監督の「雨月物語」(1953年)で女郎屋の客引きを演じていたおばちゃんでおます。
 水野浩は東映所属、金剛麗子は大映所属で、ここに東映の松浦築枝、大映の荒木忍を加えれば、この4人さんは東映時代劇と大映時代劇の間でよくバーター出演していた人たちでおます。
 脇役までは、当時の五社協定は及ばなかったようで…。


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