2006-04-28

36)独身のままのおっちゃん

 長年付き合っているのに、ついぞ子供の話題など聞いたことのなかった友達から、先日、所用で行った東京で偶然、娘も東京に遊びに来ていることを知り、所用もそこそこに一日、娘と数時間を過ごした話を聞きました。
 今、その時の友達の口調を再現するのは難しいのですが、ちょうど彼の誕生月にあたっていたため、「いい誕生日になった」と語る友達の話は一編の短編小説か出来のいい一時間ドラマに接しているような内容でした。

 と同時に、そんな友達を眺めて、われわれもそんな年代になったのかーという感慨もありましたが、残念なことにボク自身は子供を持っていないので語るべき娘も息子もおりません。
 特に男親にとって、娘は格別の存在のようですね。
 「恋人ができたら、オヤジなど振り返ってもくれないだろう」とボクに話しながらも、彼は娘に「お父さんはお前の腕をとってバージンロードを歩きたい」と、いずれ来る日の夢を語ったそうです。
 その時、ふっと小津映画の「晩春」(1948年)で娘(原節子)を結婚させた父親(笠智衆)の顔がボクの心の中に浮かびました。いずれ、娘を持った父親というのは、あの笠智衆のような思いにとらわれるのでしょうか。



 そんな話を聞いた翌日、仕事に向かう電車から窓外を流れる景色を見るともなく見ながら、小津映画って独身の男って登場してきただろうかと思いました。

 この場合、佐田啓二や高橋貞ニ、吉田輝雄、あるいは鶴田浩二などのようにヒロインの周囲に登場する独身男性たちではありません。小津映画で交互に主役や脇役で登場した笠智衆や佐分利信など、おっちゃん世代に属する男性たちのことです。

 小津映画では、彼らがよく学生時代の友達と酒を酌み交わすシーンが描かれています。その友達に扮したのが中村伸郎や北竜ニ、十朱久雄、あるいは菅原通斉といったおっちゃんたちですが、彼らの全員が家庭を持った人物として登場してきます。
 一人や二人、独身のままのおっちゃんがいてもよさそうなのに、不思議と皆、妻に先立たれたという設定はあっても、一度は家庭を持ち、子供もいるおっちゃんたちです。たとえ、現在は独りであっても、かつては家庭を持っていたというような設定になっています。友達ではないにしても、「秋刀魚の味」でだらしなく酔ってしまう中学時代の恩師(東野英治郎)にすら、家に帰れば娘(杉村春子)がいましたよね。

 独身のままのおっちゃんが一人も登場しなかったのは、なぜだったんでしょう。
 小津安二郎は生涯を独身で通した人ですが、この「独身のままのおっちゃん」というのは小津にも当てはまることです(くしくも、おじさんという意味ではない「おっちゃん」は小津の愛称でした)。
 小津は周囲の人間に対して微に入り、細にわたる厳しく、そして温かい眼差しの観察者だったようですが、自身が独身であるがゆえに「独り身の野郎なんて絵にならねぇーよ」と認識していたのでしょうか。
 あるいは、独身のままのおっちゃんを登場させることは、自分の内部を抉り出すことにもつながるので、あえて避けていたのでしょうか。
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万年独身青年

小津映画は、私の場合、十年周期で急に観たくなる時期が来るようです。この五、六年はパラパラと観ていますが、観る作品はだいたい決まっていて、『晩春』以降の名作だけです。青山さんの言うように、登場人物には「独身のおっちゃん」は出てきませんが、映画を観る限り、いかにも万年独身青年が作った作品だなーと思いますね。男と女(夫婦でも言いですが)の修羅場を描いた作品は多分なかったのではないでしょうか。小津はそういう話は描かなかったし、まただからこそ、人間の孤独とか、女性への敬慕とか、違ったテーマを掘り下げていった。そこが、スゴイと私は思っています。原節子があんなに輝いているのも、小津が万年青年だったからで、憧憬の気持ちを投影したからだと思います。また、伺いますので、いろいろ書いてくださいね。

万年独身青年

 小津の万年独身青年、わかりますねぇ。女性への、特に原節子が演じた女性への、その想いもわかりますね。
 ボクと小津との出会いの映画は「彼岸花」でしたが、一番好きな作品は「麥秋」です。
 背寒さんは??

小津作品

どれも好きですが、「彼岸花」と「秋刀魚の味」がいいなーと思います。明るい作品が私の好みなんで…。でも、いちばん観ている回数が多いのは「東京物語」ですかね。「麦秋」もいいですね。
今、三百人劇場へ通っています。観客がいつも三十人位で、これじゃ「三十人劇場」だ、なんて思っています。田坂監督の映画4本観ました。「爆音」「路傍の石」「女中っ子」「どぶろくの辰」ですが、「どぶろく」以外は感動しました。来週は錦之助と佐久間良子の出演作があるので、毎日観なくちゃ!
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