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2010-10-24

「雷桜」のラストは?

雷桜101024


 このところ、観る映画は時代劇づいております。観るばかりでなく、出てくる映画に時代劇が多い世の中で、「オカダジャパン」にひっかけて5本の時代劇映画がセットになってPRされており、そのうちの3本も観ているって(残り2本は未公開でおますが)、どないなってんの? でおます。

 佐藤純彌監督の「桜田門外ノ変」で肩すかしをくらった後、観たのが廣木隆一監督の「雷桜」でおます。原作・宇江佐真理、脚本・田中幸子、加藤正人による若い男女の悲恋物語で、廣木監督といえばボクは2003年の寺島しのぶがまぶしい「ヴァイブレータ」以来でおます。2007年にはボクの好きな作家、馳星周の「M]なども映画化しているようですが、この映画はまだ観ていません。星周原作の映画って、あまり成功していないようなので、どうなんやろね?

 さて、「雷桜」。
 このところ、ノイローゼになる金八風中学教師を演じた「告白」、女たらしの大学生役の「悪人」とワキに回っていた携帯電話CMのにいちゃん、岡田将生と若手実力派の蒼井優の主演でおます。
 蒼井優、よろしおまんな。絶対、美人とはいえませんが、その分、演技力で頑張っている人でおます。そして今回、気付いたことですが、この人の指、すらりと長く、細い、ホンマええ指してはります。もっとも、そのきれいな指が今回は馬を駆ったり、炭焼きをしたりする山奥で育った娘という役柄上、「あり得る?」でおましたけど。

 将軍の息子に生まれ。気鬱の病に悩む若殿と庄屋の娘に生まれながら誘拐されて、人里離れた山奥で育った娘との「この世のさだめ」に阻まれる恋物語でおますが、この映画を観てボクは工藤栄一監督の東映時代劇「お姫さまと髭大名」(1962年)を彷彿しました。

 工藤栄一監督の「お姫さまと髭大名」(脚本・結束信二、高橋稔)も、「この世のさだめ」に泣かざるを得なかった男女のお話でおます。
 将軍の子どもに生まれた若殿(里見浩太郎)と、その婚約者の大名家の姫(桜町弘子)がフランスの古典戯曲「愛と偶然の戯れ」やウイリアム・ワイラー監督の「ローマの休日」もどきの展開を見せた後、やっと結ばれるかと思った矢先、幕府の命令で別れを強いられるのですが、当時の東映時代劇には珍しく、印象深い幕切れとなっています。

 幕府の命令を受けて抵抗空しく、城の天守閣でなすすべもなく立ちつくす若殿と床に泣き伏してしまう姫の姿をフルショットで捉えたまま映画は終わります。これがマキノ雅弘監督や沢島忠監督の映画なら、幕府の命令もなんのその、愛する若殿と姫は歌なんぞハモりながら手に手を取って駆けていくハッピーエンドの映画になるところでおますが、主人公2人が抗うすべもないまま終わり、この作品はそこにこの世の不条理ってやつを盛り込んでいるんでおますな。
 かつての夢物語のような映画でなく、暗澹とした未来を予測させて終わる映画って、ここはやはり東映時代劇末期という時代相を感じさせる作品でおます。

 「雷桜」を観て、なぜ「お姫さまと髭大名」を思い出したかというと、「雷桜」もまた、この世の不条理に泣く男女の映画だったことにほかなりません。
 徳川将軍家の後継者予備群であった「ご三卿」の1つ、清水家の当主の若殿と山で育った野人のような娘との恋、これはもう成就しようがおません。自由奔放に育ち、生きてきた娘は生まれた庄屋の家に戻った後、母親(宮崎美子)に「運命ってなんぞや」と問います。母親は娘の苦しい胸の内を察しつつ、「それはこの世のさだめというものです」と優しく諭します。
 「お前といる時だけが本当の自分にいられた」と娘に言う若殿は、将軍(坂東三津五郎)の命令で紀州徳川家に婿入りと決まり、茫然としてしまいます。それでも娘との恋を成就させようとする若殿の暴走をお守り役の老臣(柄本明)が命を賭けて諌め、若殿の行く手は阻まれてしまいます。

 こんな若い2人にとって不条理でしかない結末を、この映画はどう迎えるのか興味深く観ていたところ、ラストでいきなりテレビ的になってしまうんですな。
 娘は母親の反対を押し切って若殿奪還へ愛馬を駆り、紀州へ向かう若殿の行列に暴れ込みます。駕籠の中の若殿は思わず外へ飛び出そうとしますが、娘の兄で近習の侍(小出恵介)に強く押しとどめられ、娘が全身を震わせて若殿の名前を呼ぶ中、駕籠の戸は開くことなく、行列は去っていきます。愛馬にまたがった娘は慙愧の涙を流すしかおません。

 ここで終わりかと思いきや、まだ後があったんでおます。
 「十八年後、紀州徳川家」の無情のタイトル。つまり、映画は18年後のシーンを用意して、その後の2人を見せるのでおます。これが、ボクの言う「テレビ的」なことでおます。説明しすぎってやつです。娘の涙で終わっておけばいいものを、その後、2人はどうなったかまで、テレビ慣れしている観客へのサービスなのかもしれませんが、そんなことまで見せて、どうすんの、アンタ! でおます。
 その後のことは観客の想像に委ねてこそ映画的サービスというものであって、ここまで見せんことには観客は痒いところに手が届いたと納得せんのですやろね。
 もし、娘の涙で終わって後は知らんよというラストだったら、この映画のラストも「お姫さまと髭大名」に匹敵する余韻ある結末になっていたのに…でおます。

 お守り役の柄本明、「桜田門外ノ変」に続き、儲け役でおます。ひょろひょろと頼りなさげな風貌の中にも世の中の仕組みは変わられないという厳しさをのぞかせ、最後は若殿の暴走に対して腹を切って自分の役職としての武士の一分を立て通す役でおます。
 もう笑うしかなかったのが、またまたの宮崎美子の田舎のおかあちゃん。今回は庄屋の凛とした奥さんでおますが、母親役って、この人しかおらんの? と思ってしまうほどの今年3度目の田舎の母親役登板でおました。
 若殿と娘の命を狙う刺客団のリーダーにピーターの池畑慎之介という意外なキャスティングをしてはりますが、こういう人って時代劇に出たら途端に芝居臭いセリフになってしまうんですな。
 娘をかっぱらい、山の中で育てることになる元武士の父親役に時任三郎が扮していますが、人里離れた山奥で男が女の子を育てたって、女の子が初めて月のものをみるようになった時、どう処理したんやろ? って、これは余計な心配でおますが…^^
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感服いたしました。

仮面ライターの友人さんへ
感服されるほどのことではないですが、観ようと思った映画はできうる限り観ておかないとね。そのかわり、どんなにヒットしていようと、どんなにいいと言われていようと食指が動かなかったらテコでも動かない、それがボクの性質でおます^^
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