2010-10-03

今時の人の嗜好は「十三人の刺客」

十三人の刺客101001


 昔、通っていた中学の校舎の外に見える道路は駅へ続く坂道でおました。その坂道をほとんど上りきった向かい側の道沿いに、校舎と向かい合うように立てられていたのが映画の大きな看板で、まだ町に映画館が2館もあったころで、その一方の映画館で上映中の映画の大きなポスターがいつも掛かっていました。
 
 中学の校舎と向かい合って見える映画のポスターは、まるで勉学にいそしむ中坊たちを誘い込むかのような勢いで、ケバケバしい金赤のタイトルや大きく彩られたスターの顔を誇示していました。いったい、その挑むようなポスターを見て何人の中坊が映画館へ誘い込まれたのか、それは分かりまへんが、ある時、いつものように休憩時間にひょいと外を見ると時代劇のポスターが掛けられていました。
 ゴテゴテと侍姿の俳優たちの顔が居並ぶ中、ひときわ大きく載っていたのが片岡千恵蔵と嵐寛寿郎であったことは今も記憶の底に焼き付いています。

 それが1963年に封切られた映画「十三人の刺客」(脚本・池上金男、監督・工藤栄一)との出会いでおました。とはいえ、実際にボクがこの映画を観たのはもっとずっと後のことでおます。
 後年、この映画が東映時代劇の末期に忽然と現れた「集団時代劇」と称された映画群の中でも最高傑作と評されたのは封切から十何年も経ってからのことで、それをボクが知った時、ボクは大学生になっていました。

 この映画の封切時と自分が中学生だった時とを考え合わせると、ボクが「十三人の刺客」のポスターと出会った時は封切から1年は経っていたころで、このあたり、田舎の映画館らしゅうおます。実際には、この映画は当時はまだ量産されていたプログラムピクチャーの1本として封切られたものの、評判を呼ぶこともなく、従ってヒットしていると聞いたこともなく終わった映画でおました。

 それから幾星霜隔てた2010年の今年、原作・池宮彰一郎(東映映画シナリオより)とタイトルにある「十三人の刺客」(脚本・天願大介、監督・三池崇史)がリメイクされ、公開されています(池宮彰一郎は、シナリオライター池上金男の小説家としてのペンネームでおます)。
 テレビでスポットCMが繰り返され、海外の映画祭にも出品されるという鳴り物入りの再映画化でおますが、この映画、アクションに徹し切って最後まで面白く見せております。

 

 
 よく知られているように、この映画は選び抜かれた13人の男たちがたった1人の殿様の命を狙うお話でおます。狙うには訳があるのでおますが、もちろん、その殿様は独りでいるはずはなく、殿様を警護する家臣団との知力、体力を賭けた13人とその二十倍はかのようないる家臣団との頭脳戦、肉弾戦の展開が見ものでおます。
 こうなりゃ、もうアクションでおますがな。見せて、見せて、見せまくっております。

 事の起こりの描写と刺客の面々が整った後は、ひたすら両団体の駆け引きに次ぐ駆け引きで、最後の肉弾戦になだれ込んでいますが、このアクションを見せ場として徹し切ったあたり、いかにも現代の人の嗜好にかなった作り方で、隠してこそ表れる妙、小説でいえば行間の目に見えないところを読んでくれといっても、現代人は裏に潜む「まこと」を推し量るような妙技は持ち合わせておりまへん。
 そんなんゴチャゴチャ考えるより、早く目に見せてよというのが今の人の特技でおます。早い話が、人や書物に当たって答えを見つけるよりもPCを操作して簡単にそれらしい答えを出すというような人ばかりでおますから、そういう人たちを相手に「惻隠」を期待するようなことしてもウケませんわな。
 そういう意味で2010年ならではの、大変よくできた映画でおます。

 刺客団の頭目(役所広司)率いる、さまざまな特技を持つ12人の男たち、頭目とは飲み分けの旧友でありながらライバル視してきた果て、敵味方に分かれる家臣団の宰領(市村正規)、刺客団に味方し、その場を去らず切腹して自己を貫き通す老武士(松本幸四郎)、問題の人物が将軍の弟といえど政治家として刺客団を立てて抹殺せざるを得ない老中(平幹二朗)など、暗殺事件にかかわる人物たちの中で意外に面白かったのが殺される殿様、つまり、問題の人物でおます。

 SMAPの稲垣吾郎扮するこの殿様、正気と狂気の狭間を行く異常性格の人で、将軍の腹違いの弟ということで常に横車を押している藩主でおます。かつて、将軍など頭に立つ者は家の存続のため、後継者候補をたくさんもうけておくという種馬の側面もおました。この殿様もそうした中でこの世に生れてきた1人で、数ある後継者候補の中に種が悪かったのか畑が整ってなかったのか、1人や2人、おかしいのが登場しても変ではありませんわな。

 自分を諌めるため、幕府へ直訴して果てた重臣(内野聖陽)の遺族を小さな子どもに至るまで、まるで動物を殺すように家臣が居並ぶ中で弓矢で射殺したり(吾郎クンの弓の張り方、ちょっと間違ってましたけど)、参勤交代で泊まった陣屋で武士の人妻(谷村美月)を無理やり従わせ、その夫(斎藤工)を惨殺したり、百姓一揆の首謀者の娘の舌と手足を切り落として慰み者にしたり、悪逆非道を絵に描いとります。

 こんな人物が、将軍直々の声掛かりで次年度の老中職を約束されたので「そんなアホに政治を任せられるかい」と慌てた現老中が将軍の顔も立てられるよう秘かに抹殺を計画するのですが、この異常性格の殿様、マジでええことも言っています。
 自分を狙う刺客団と家臣群の戦闘の最中、あたり一面、死人が増えていくのを目の当たりにして
 「死が近づくと生きることに必死になるものじゃ」と、その言葉だけを取り上げれば、まっとうなこと言ってはります。

 ところが、そのあとがあきまへん。人の生き死にを目の前にして目が段々と狂気に輝き始め、「そうだ、わしが老中になったら、この世を再び戦国の世に戻そう」とアホなことぬかしてるんですな。側にいた宰領も返答に窮するほど、どうしようもない殿様でおます。
 最後は、死力を尽くして自分を守ろうとした宰領の、頭目にはねられた首を足蹴にして頭目の猛然とした怒りに買い、その頭目と刺し違えて雨にぬかるんだ地面を「痛い、痛い」と言いつつ転げ回りながら頭目に首をはねられてしまいます。

 吾郎クン、顔もわからないほど泥んこになりながら首をはねられ、その飛んだ首が厠の踏み板に転がりますが、そういう役をよくジャニ事務所が許可したなと、これは映画の出来に関係ない別の驚きでもおました。
関連記事

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

こんばんは^^V

熊猫屋です。
来ちゃいました(笑)。
先刻は、相互リンクの件でお申し出ありがとうございました。
先ほど、当ブログにもリンクを貼らせていただきましたので、よろしくお願い致します^^

日本映画中心でいらっしゃるのですね。
「加藤泰論」とか、興味がある記事も色々あり、じっくりと読ませて下さい^^

時代劇以外も日本映画に関心があるので、
今後はちょくちょく寄らせていただきますね。
このたびは改めてありがとうございました。
今後ともよろしくお願い致します。

熊猫屋さんへ

初のご訪問、ありがとうございます。
ご覧のようなブログですが、今後ともよろしくお引き立てください。
リンクありがとうございます。
プロフィール

青山彰吾

Author:青山彰吾
 日本映画を中心にしたコーナーです。
 ただし、取り上げる映画は偏っています^^
 
 

最近はこんなんです^^
ゲストのひと言
テーマ紹介
FC2カウンター
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

在庫の記事