2009-08-17

嫁と母の間で揺れ動く「反逆兒」

反逆児(梅コマ)


 萬屋錦之介が亡くなる10年前、大阪・茶屋町に移転する前の梅田コマ劇場で「萬屋錦之介特別公演」を観たことがおます。
 出し物は「反逆児」でした。
 
 といえば、お分かりの方の多いと思いますが、元ネタは錦之介がまだ中村錦之助と名乗り、脂の乗り切った若手映画俳優だったころ、主演した映画「反逆兒」(1961年、東映京都)でおます。

 以来、錦之助は、この作品をしばしば舞台化し、自ら主演し、映画のほうで脚本、監督を手掛けた伊藤大輔が舞台化でも脚色、演出を買って出ております。
 錦之助にとっては、愛着の濃い作品でおましたのですやろね。
 
 ボクが観た舞台「反逆児」は、おそらく錦之介が舞台化した最後のものと思われます。
 「そういや、まだ錦之介をライブでは観てへんかったな」と、その日、にわかに思い立って梅田コマ劇場に駆けつけ、当日券で観てきました。
 そして、それが錦之介をライブで観た最初で、最後となりました。

 この時の演出は、亡き伊藤大輔の後を継ぎ、錦之介とは映画、舞台、テレビで付き合いの深かった沢島正継(沢島忠。愛称=さわちゅう)でおました。

 ところが・・・でおます。
 初めて観たライブの錦ちゃん、もうあきまへんでした。
 演技力が落ちていたとか、度重なる病気で覇気をなくしていたとか、そういうことではおまへん。

 「反逆児」の主人公、岡崎三郎信康という利発、闊達な青年武将に扮するには、錦ちゃん、ひどくトシをとってしまっていたのでおます。実年齢では、この作品に登場する父親の徳川家康や舅に当たる織田信長のようなオッチャンを演じてもおかしくない世代なのに、それが青年武将を演じても、もはや、錦ちゃんの容姿、身のこなしに若さが感じられなかったのでおます。

 錦ちゃんの演技力以前に「こりゃ、アカンわ!」となってしまいました。
 フィルム作品と違い、舞台ではどんな老優でも若づくりの役はできるとはいえ、はたまた、演じる俳優にどれだけ役に対する思い入れがあろうとも、その役が必要としている若さを演じる俳優が観客に感じさせられなかったら、もうあきまへん。

 大変残念な一期一会となりました。

 さて、映画「反逆兒」(1961年、東映京都)でおます。


 この作品、戦後の伊藤大輔監督の戦後の最高傑作といわれております。
 確かにそうで、波長の高低差が激しい伊藤大輔の監督作品の中では戦後、「王将」(1948年)と並んで、ドラマ性たっぷりのよくできた映画でおます。

 ストーリーテラーとしての伊藤大輔の重厚な雰囲気を盛り込んだ格調高い演出、男声コーラスで悲劇性を高めた作曲家、伊福部昭のおなじみのメロディーに酔いながら観ていると、最期まで観客の目をとらえて離さない息詰まるような正統派時代劇でおます。

 でもね・・・。
 一歩引いて観ると、これって徳川さんちの家庭騒動なんじゃないの? という映画でおます。

 かつて繁栄を誇った大企業の社長(今川義元)の縁続きの女(築山御前)を妻にした中小企業のオヤジ(徳川家康)の息子はキレ者で、オヤジは自社の生き残りをかけて新興の実力派企業の社長(織田信長)の娘(徳姫)を息子の嫁にもらいました。

 ところが、オヤジの妻の実家の企業は、新興企業につぶされちゃったんですね。だから、オヤジの嫁さんは息子の嫁は、仇の娘だから大っきらい。おまけに、実家の世話になったはずの夫も実家の危機を助けようとしなかったので別居中でおます。

 息子の嫁も、実力のある新興企業をバックにしているので鼻息があろうおます。

 そんな母親と女房に挟まれ、仕事ではキレ者でも家庭不和を抱えている息子の悲劇を描いたのが、この映画でおます。

 ね、戦国武将がどーの、家康がどーのっていうより、こんなに噛み砕いたほうがわかりやすいですやろ?

 信長(月形龍之介)は、娘の徳姫(岩崎加根子)の婿で、家康(佐野周二)の後継者である信康(中村錦之助)を「危険人物」とみなしています。
 セリフにも出てきますが、親父はトンビだが、息子はタカだ、と。
 信長は、青年武将、信康に若き日の自分を見たのですね。
 だから、「こりゃ、何とかせんと寝首をかかれるかもしれん」と危惧します。

 そんなところに、徳川さんちの家庭騒動は、信長にとって信康撲滅の好材料だったんですね。
 家康の女房、築山御前(杉村春子)が、徳川、織田を憎むあまり、甲斐の武田勝頼と通じていることをつかみます。
 このころの武田家は信玄は既になく、息子の勝頼の代になっていました。こちらも大社長が死んでしまって落ち目の企業になっていますが、信長はいずれ武田家も滅ぼそうと考えています。天下統一の邪魔になるんですね。

 娘は婿とちょいちょい夫婦喧嘩しています。これも、信長にとってはいい材料で、娘が父親の自分にたびたび愚痴の手紙を送ってくるのを、もっけの幸いとしています。男から見ると、女の他愛ない愚痴でも、徳川さんちの家庭事情がわかるからですね。

 いよいよ、信長は築山御前の武田家への内通の動かぬ証拠をつかみ、信康もその画策に加担しているとでっち上げ、家康に妻と息子の処分を命じます。

 中小企業のオヤジである家康は、大企業からの命令を拒否ることはできません。一戦交える覚悟があっても、戦えば自分の企業も滅んでしまうことがわかっているからです。
 豊臣政権になり、ジワジワと力をつけて、その動向が無視できなくなるほどの政治力を持つまでの家康は、まだ信長存命中は中小企業のオヤジです。
 現代なら、大企業の命令を無視すれば、仕事を回してもらえなくなる下請け会社の社長です。

 信長の出した処分命令は「死」を意味します。
 今なら、妻とは離婚し、息子を後継ぎにしないように除籍しろということでしょうか。
 オヤジは苦衷の選択をします。
 築山御前を城から遠ざけ、家来にひそかに処分させます。
 信康には、信長の命令通り、切腹を命じます。

 信康が切腹をするシーンはラストに出てきますが、この切腹シーンは白眉です。
 腹を切る本人の諦観と哀しみ、家来たちの悲憤がないまぜになり、錦之助の真迫の演じっぷりもあって、ここだけ取り出しても緊張感漂う名シーンになっています。

 この秋、錦之助の甥、中村師童が大阪松竹座で、この「反逆児」公演で信康を演じます。
 築山御前は新派の波野久里子だそうで、ちょっと観たいかも・・・ですね。



 
 
 

 
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