2008-06-26

おっかさんの味は「緋牡丹博徒 花札勝負」

  「・・・お龍さんが初めて傘を貸してくれた、あの堀川端での手のぬくもりが、忘れていたお袋の、あったけえ手の味と同じだったからかもしれませんねぇ」

 「緋牡丹博徒」シリーズ第3作「花札勝負」のラスト、憤怒の闘いを終えた旅人の高倉健は、ともに闘った緋牡丹のお龍に、こうつぶやき、1人罪を背負って、お龍の前から姿を消していきます。

 この時代、高倉健ほど、映画の中で母を語って、いやらしくならなかった人はいません。
 マキノ雅弘監督の「侠骨一代」(1967年)や「昭和残侠伝 死んで貰います」、石井輝男監督の「網走番外地」(=第1作、1965年)、小沢茂弘監督の「望郷子守唄」(1972年)など、いずれも母の話が出てきて、主人公の高倉健は母親に熱い思いを寄せています。
 任侠映画の作り手だった男たちは、いずれも母親回帰をやってたんですね。
 男がマザコンから逃れられないということを、こんなところからでも証明しているみたいです^^

 「花札勝負」が製作された年、例の東大駒場のお祭りに横尾忠則のイラスト付きで「とめてくれるな、おっかさん、背中(せな)のイチョウが泣いている」という、高倉健主演の「昭和残侠伝」をもじった有名なキャッチコピーが登場しています。
 全共闘のアニキたちも、やはり、母親の呪縛からは逃れられなかったようで・・・^^

 さて、わがごひいき、藤純子の「緋牡丹博徒」シリーズ第3弾「花札勝負」は、1969年2月に封切られました。このころ、学生運動真っ盛りの時代で、運動に参加せずば学生じゃないみたいな空気が取り巻いていた、あの熱気も今は昔です。
 なにせ、あの世代は今、定年世代となり、濡れ落ち葉世代へ突入しとります^^

 「花札勝負」に登場する緋牡丹のお龍は、もはや、お龍ちゃんとは呼べないほど成長してます。
 まだ二代目こそ襲名していませんが、むくつけき野郎どもを向こうに回す身のこなし、メリハリの効いた啖呵は堂にいり、悲恋に泣くロミオとジュリエットには、よきお姉さんぶりを見せ、親なしっ子になった少女には母親のように優しく、知り合った旅人にはさみしく死んでいった母親のイメージを想起させ、前2作同様、お龍さんは八面六臂の火の国女であります。

 

 シリーズ3番手の監督は加藤泰。ボクの最も好きな監督さんでおます^^
 脚本は、おなじみ鈴木則文と、この当時、東映京都の監督だった鳥居元宏。この人、時代劇では松方弘樹主演の「十七人の忍者 大血戦」(1963年)、任侠映画では安藤昇主演の「侠客道」(1967年)などの監督作品がありますが、脚本家として映画、テレビ映画を通してタイトルに登場するのも多い人でおました。

 「花札勝負」の舞台は名古屋です。名古屋といえば、神戸生まれの加藤泰が少年時代を過ごした土地でおます。だから、加藤泰の言葉には少し尾張弁が混じっていましたね。

 この3作目でも冒頭、お龍が仁義を切るシーンが用意されています。
 しかし、前2作のドラマが始まる前のごあいさつというようなイベントではなく、「花札勝負」ではお龍が仁義を切ることも、きっちりドラマの中に組み込まれています。
 
 玄関口に大きなのれんがかかる組を訪れたお龍が土間で型通りのポーズを決め、応対に出た受けびと(山本麟一)に向かい、一語一語、はっきりとした語調であいさつしています。
 のれんが風に揺れて、土間に冷たい風がかすかに入り込んでいるのが、よく分かります。
 この冷たそうな感触が、旅中にあるお龍のような人物の境涯を示しているともいえます。

 シリーズ中、第三の監督として、この作品を引き受けた加藤泰は、のちにこう回想しています。

 「1作目を将軍さん(山下耕作)が撮ったり、その後、コーフンさん(鈴木則文)が撮ったりして、ボクも拝見しました。しましたけれど、注文を1つ持ちましたね」

 つまり、お龍はまだ若いのに(ボク流の言い方をすれば、まだお龍ちゃんなのに)、説教を垂れてるというのでおます。

 「お龍さんてのは幼稚園のセンセイかぁ?と。何か、人に物教え顔なんだね」

 まぁ、映画の主人公が格好よく振る舞い、セリフをキメなければ絵にはならないから、スーパーマン(あるいは、ウーマン)ぶりは仕方のないことですが、「まず、この人は女なんだ」というところから出発しなければならないと考えた加藤泰は、この「花札勝負」を含め、のちに監督を担当した6作目「お竜参上」(1970年)でも、7作目「お命戴きます」(1971年)でも、おんなとしてのお龍を、また、やくざとしてのお龍を、いじめたはります。
 知り合った男に思いを伝えられずに密かに苦しみ、「あたしの人助けの方法って、間違ってたのかしら?」と、お龍さんは苦しくことになります。

 その結果、ほかの監督の時の作品と違い、理屈っぽい加藤泰とシリーズ中、3本の作品に付き合った主演女優は後年、

 「加藤さんの映画って、しんどいのよね」

 と振り返ることになります。

 「花札勝負」は、かつての主演女優だった寺嶋純子さんにそう振り返らせることになった、いわば緋牡丹博徒しんどい篇の第1作ですね

 お龍さん、この作品では自分の名を騙るニセお龍(沢淑子=のちの任田順好)と、その娘で盲目のお君(古城門昌美)と知り合います。このニセお龍は子連れで旅から旅へ流れ歩き、バクチの神様と言われる亭主(汐路章)を探しています。
 お龍は、その境遇を知るに及んで親子を助けようとしますが、ワラジを脱いだ一家と、対立する一家との抗争の中でニセお龍ばかりでなく、やがて現れた亭主のほうまで死ぬことになり、一人残ったお君を孤児にしてしまいます。

 ね、しんどいお龍さんっしょ^^
 自分が手を下したわけではないけれど、かかわった人間を2人も死に至らせてしまったという慙愧の思いが、のちに6作目の「お竜参上」に引き継がれ、お龍さんは成長したお君と再会することになり、ますます自分の取った行動で思い悩むようになります。

 ホンマ、加藤泰って、いじわるなオジサンだったんですね^^
 


 

 
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