2006-11-30

父親殺しの「傷だらけの人生」

傷だらけの人生


 今は亡き鶴田浩二のヒット演歌「傷だらけの人生」の歌がタイトルバックとラストシーンに流れる1971年の東映京都作品「傷だらけの人生」は、ズバリ、実の父親を殺してしまうやくざが主人公の映画です。
 敵対するやくざと抗争したり、兄弟分と称する同じやくざ仲間を殺害したりのストーリーはもう、すでに珍しくないものの、親殺しの題材はめったにありそうもなく、だから、この映画が登場した時、「ついに東映のやくざ映画も、ここまで来たか!」と一種の感慨がありましたが、いざ、実際に映画を観てみると・・・。
 脚本は笠原和夫と並び、任侠映画、いわゆる、やくざ映画を延々と書き続けた村尾昭、監督はマキノ雅弘、加藤泰、山下耕作などより、はるかに多くのやくざ映画を演出した小沢茂弘です。


 主人公のやくざ(鶴田浩二)は一家を構える親分です。この男、実の父親を知りません。亡くなった母親が再婚したため、刺青師の義父(北村英三)がおり、義父を実の父親同然に大切にしていますが、そこは人情、生きているなら顔も知らない実父にひと目会ってみたいと、心の奥底で願っています。

 そんな主人公を取り巻く、やくざ社会の跡目を巡る抗争。一家内の別の組織には兄弟分(若山富三郎)がいます。その一家の親分(浪花五郎)が急死し、跡目を代貸(天津敏)が継ぎます。この男、少々デキが悪く、亡き親分の未亡人(八代万智子)に色目を使って何とかしようと企んでいます。
 この新しい親分を後押しするのが生駒の叔父貴と呼ばれている親分(遠藤辰雄)です。演じている俳優からでも分かるように、この男は大阪と奈良の間に横たわる生駒の山を越えて大阪に進出しようという魂胆を持っています。
 実は、この親分こそ、主人公の実の父親なのですが、我慢がならんと、主人公が斬り込みを決意した時、義父が血相を変えて飛んできて主人公に「あの男こそ、お前の本当の父親や」と知らせます。
 一方の生駒の親分も自分にタテをつく男が自分の息子だと知るのですが、主人公が生まれたのが、その母親と別れた後であったため、「あんなヤツ、誰がオヤジか分かるかい」とうそぶきます。

 ここのところ、ドラマとして面白いでしょう。
 お互いに知らないとはいえ、実の父親と子どもが同じやくざ世界に生きていて抗争を繰り広げる。そして、お互いに血のつながりがあったと知った時、子どもはもちろん、親のほうも相克が生まれるはずですよね。
 でも、映画は実にスイスイと、いつものようにストーリーが進んでいき、ラスト、子は親であるはずの男を憎しみを込めて殺害するに至ります。

 じゃ、なんで殺す相手が父親だったという設定にしたんかい? という不満が観るほうには残ってしまいます。
 この作品をほかの監督が演出するとなると、マキノ雅弘なら「わしゃ、そんなややこしい話は嫌いじゃい」と逃げてしまったかもしれません。加藤泰なら、きっと重く、重く描くかもしれません。山下耕作は、ずっと主人公の苦悩の表情を捉え、苦しい涙を目にたたえる主人公のアップで映画を終わらせるかもしれません。
 軽~く、いつも通りのやくざ映画に終始したところに、エンターティナーに徹しきった小沢茂弘の小沢茂弘らしい特徴があるようですね。

 この監督さん、量産されるやくざ映画の担い手として頑張っていましたが、ややこしい話はダメ、女との色模様もほとんどなしで、アクション一筋に徹した監督でした。
 東(東映東京撮影所)の佐伯清と並び、ボクは「女は乗せない戦車隊」監督と呼んでいますが、この作品でも和製フェイ・ダナウェーと称された(ボクの友達はそう呼称しています)工藤明子が鶴田浩二の女房役として顔を見せており、鶴田浩二と工藤明子との共演作品は多いにもかかわらず、ほんの彩り程度にしか扱われていません。

 親子の相克というギリシャ悲劇っぽい題材にしろ、美女との色模様にしろ、どちらかと言えば不得手にもかかわらず、小沢茂弘はこの作品の翌年、今度は同じやくざ社会に生きる兄弟の葛藤をテーマとした、同じ村尾昭の脚本による「傷だらけの人生 古い奴でござんす」を演出しています。
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about。。加藤泰監督

加藤泰加藤 泰(かとう たい、1916年 - 1985年6月17日)は、日本の映画監督。神戸市出身。戦後から時代劇や任侠映画の監督として活躍。代表作に『真田風雲録』、『明治侠客伝 三代目襲名』、『緋牡丹博徒』シリーズなどがある。極端なまでのローアングルとクローズアップ

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親殺しという題材

 親殺しという題材は、いろいろな映画で見られますね。しかし、この映画は当然のことながら未見です。うーん悔しいかも。
 でも、小沢茂弘という人は、信用できる部分とそうでない部分の差が激しいような気もします。東映を退社してからは、京都のあるお寺で易者として隠遁生活を送っていたようですね。石井輝男の再評価の波に乗って、インタビュー本が出て、これからともう一花かなという時に亡くなられましたね。
 ちなみに、最近は山口百恵にはまっています。そういえば、彼女主演のテレビシリーズでは、異母兄妹同士で恋に落ちるといった、リアリティーのない設定が日常茶飯事でしたね。
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